KUWAE lab.CMES Ehime University

PROJECT研究プロジェクト

01人新世の到来を示す国際標準となる地層の探求

地球温暖化に代表されるように、産業革命以降の人為撹乱による地球環境変化は、長い地球史から見ても、著しく大きな規模の一つです。そうした近年の大規模な地球環境変化の事実から、完新世から人新世(Anthropocene)という新たな地質時代に移行したという人新世仮説が提唱されるようになりました。

 しかし、その根拠となる地層境界の世界標準模式地、いわゆるGSSPはまだ決まっていません。その模式地についてAnthropocene作業部会を中心に候補が検討される中、日本の大分県別府湾の海底堆積物が最もふさわしい候補の一つとして現在検討されています。

 私たちは、別府湾において人新世の始まりを特徴づける人新世キーマーカー層序のデータセットを構築することで、別府湾堆積物が人新世のGSSPに選定されることを目指しています。READ MORE-

人新世のゴールデンスパイク
人新世のゴールデンスパイク

成果:Kuwae et al. (2013), JAES; Tsugeki et al. (2016), JO; Takahashi et al. (2020), STE; Nishimuta et al. (2020), PE.

02世界初!海底堆積物中のDNA量で魚の個体数変動が捉えられることを検証

イワシの魚群

地球上の脊椎動物など大型生物の個体群の長期動態の解明は、種の進化や絶滅、気候変動や人為撹乱に対する応答に対する理解、生物種の保全策にとって不可欠ですが、地球上のほとんどのマクロ生物の個体群の長期動態は、いまだ謎に包まれているのが現状です。

 本研究では、過去の魚の動態解明に今後期待が寄せられる堆積物中の環境DNA(有用浮魚類を対象)に着目し、魚の個体数変動を推定する方法としての堆積物DNA技術の有用性について検討しました。

 その結果、堆積物からカタクチイワシ・マイワシ・マアジのDNAが検出され、各種の指標との相関関係も明らかになり,堆積物のDNAから魚の個体数の長期動態が復元できることがわかりました。

 これは、個体群の生物量・個体数の長期動態の情報が長期保存されている堆積物柱状試料が得られれば、環境DNAによるモニタリングが始まる以前の生物情報だけでなく、これまでモニタリングでカバーできなかった地域の生物モニタリング情報の取得を可能にすることを示唆しています。

 今後、堆積物DNAによる地球上のマクロ生物の動態把握は、21世紀の生物モニタリングを支える有用な技術として期待されます。さらに、過去の気候変動や人為撹乱による環境変動に対する生物の応答を詳しく調べることで、より確かな生物種の動態予測、生態系変化予測につながることが期待されます。READ MORE-

成果 : Kuwae et al. (2020), CB.

03カタクチイワシ・マイワシ資源の長期動態

ウロコ
堆積物中から得たマイワシのウロコ

20世紀、太平洋ではマイワシやカタクチイワシといった世界で最も漁獲されるイワシ類の魚類資源が数十年スケールで変動し、日本やカリフォルニア沖といった遠隔地間での資源が連動していたことが知られていました。

 これにはその駆動要因に太平洋規模の気候変動が関わっていることが指摘され、数十年スケールで変動する大気-海洋-海洋生態系が存在するらしいことが明らかになってきました。

 さらには、カリフォルニア沖では堆積魚鱗記録から、100年スケールというより長い周期性をもつ魚類資源変動が知られていましたが、一方で、太平洋の西側ではそうした堆積魚鱗記録が存在しなかったために、太平洋東西資源の連動性については未解明でした。

 愛媛大学沿岸環境科学研究センターを中心とする私たちの研究グループでは、太平洋西側で初めて海底堆積物からマイワシ・カタクチイワシの鱗を発見し(写真)、その長期資源動態の解明に成功しました。

 復元された記録には、太平洋西側である日本の周辺海域でも、カリフォルニア沖と同様に100年スケールの周期性を持つ資源変動が認められ、しかもカリフォルニア沖の記録との比較から、太平洋の東西で魚類資源が連動している実態が明らかとなってきました。

 この事は、その東西資源の連動性の背後に100年スケールで変動する「大気-海洋-海洋生態系」が太平洋に存在する事を示唆しています。今後詳細な資源変動の駆動要因が両海域で明らかになれば、魚類資源の長期予測に極めて重要な情報をもたらすと考えています。

成果 : Kuwae el al. (2017).PO

04越境汚染等の人為的環境撹乱による湖沼生態系変動に関する古陸水学的研究

湖沼

私たちの研究室では、東北大学・岡山大学との共同研究で、越境汚染と生態系変動に関する研究を行いました。(環境省環境研究総合推進費によるプロジェクト平成22~24年度)

 これまで我が国の湖沼生態系、特に生物に関する定期的な観測・観察は、人材や経済コスト面から、すべての生態系を常日頃からモニタリングすることは出来ませんでした。また、同様にモニタリング技術の開発も全く行われていませんでした。

 限られたコストの中で、社会ニーズに応えられる生態系(湖沼)管理のためには、日常的なモニタリングが実施されていない湖沼における、事後的なモニタリングが不可欠です。特に人為影響の少ない高山湖沼では大気経由の物質負荷に対する湖沼生態系への影響が懸念されており、広域汚染の動態と生態系変化の解明が喫緊の課題と考えられます。

 本研究では、最新の化学分析及び分子生物学的手法を古陸水学的アプローチに適用し、湖底堆積物に記録された化学・生物情報から近過去(100 年程度)の湖沼環境と生物群集を復元する技術の開発を行いました。3年間の研究から、大陸より飛来する越境汚染物質とその生態系への影響に関する多くの知見が得られました。

成果:Kuwae et al. (2013),STE; Ttugeki, et al. (2012),ER.

05日本周辺海域における完新世気候変動の高時間解像度復元

有孔虫
浮遊性有孔虫

完新世(約11,700年前から現在までの時代)の気候は、それ以前と比較すると随分と安定したものであることはグリーンランド氷床コアの酸素同位体記録を見ると一目瞭然です。

 しかし,完新世を生きる我々人間は弱く、小さな気候変化に大きく影響を受けてしまいます。完新世において “どの程度の気候変動” が “どのような時間スケールで起こってきたのか” を知っておくことが現在を見据えるために重要です。

 さらに、その気候変動が何によって駆動されているのか?という疑問に答えることができれば、今後の気候変動の予測にも役立つことになるでしょう。

 そこで、私たちの研究グループでは,日本周辺海域における完新世の古気候記録の復元を行うために、青森県下北半島の沖合(水深約1200m)で海底堆積物コアを採取しました。この堆積物コアは平均堆積速度が75cm/kyrと非常に速く、時間解像度の高い古気候記録を復元するのに適した試料です。

 現在、地球化学的・古生物学的手法を使って過去11,000年間の海洋表層水温や生物生産の変動を復元しています。海洋表層水温の指標には、浮遊性有孔虫(写真)を1cm間隔にスライスした堆積物中から拾い出し酸素同位体比とMg/Caを分析しています。

成果:Sagawa et al. (2014)EPSL